攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 第16話「心の隙間」

物語は、公安9課のバトーが、兵器ロボット「タチコマ」のラボ行きを見送るところから始まる。タチコマは、前話までに人間らしさを得てしまったことを危惧され、9課の兵器として今後使用せず、実験用のラボへの移動が決まっていた。

健気なタチコマを見送るバトーの表情に笑顔はなかったが、潜入捜査の命令により海上自衛軍に潜り込むことに。
対象は、海自の格闘教官に就任したパブロ・ザイツェフ。ザイツェフには、海自の重要データを外部に提供している疑惑がもたれ、バトーには彼がスパイかどうかを調査する任務が与えられた。

ザイツェフはロシア出身のボクサーで、2020年のパラリンピックで銀メダルを獲得したトップアスリートだった。ザイツェフのファンだったというバトーは、潜入初日に憧れのボクサーと訓練所で拳を交えるも、一進一退の攻防の末にザイツェフのクロスカウンターでKOされてしまう。意識を取り戻したバトーに、ザイツェフは「義体の隙をついた」と説明した。

この一件でザイツェフから気に入られたバトーは、対象との距離を縮めることに成功。のされた日の夜、ザイツェフの自宅に招かれたバトーは、サイドボードに数々のメダルやトロフィーが飾られているのに気づく。ザイツェフは、唯一勝てなかったパラリンピック決勝を「唯一の敗北で、人生の計画が狂った」と後悔していた。

そこへザイツェフの妻が酒とつまみを持ってやってくるが、お盆に乗せられたボトルを見たザイツェフが気分を外してしまう。そのボトルには、蜂蜜を発酵させて作るメドブーハという自家製酒が入っていた。「もっと高い酒があっただろ」と苛立つザイツェフに、妻は「おもてなしは気持ちが大切」と説く。「外で飲み直そう」と提案したザイツェフだったが、情報を横流ししていた相手からの連絡があり、その夜はお開きに。

翌日、バトーはザイツェフの部屋に忍び込み、スパイ行為の証拠を集めようとする。データの移送先が判明するまであと一歩だったが、ザイツェフに怪しい動きを察知されてしまい、決定的な証拠はつかめなかった。

その日の夕方、ザイツェフはバトーを再び飲みに誘い、2人は昨晩行けなかったバーへ。バトーを怪しがっていたザイツェフは、故意に酒をこぼして店員に拭くものを借りてくるよう頼み、席からバトーを遠ざけた。その間に身分証などを確認。すると、昨晩と同様に、情報を横流ししていた相手から緊急連絡が入り、しばらく待つようバトーに言う。

ザイツェフは、バーから離れた場所で雇い主グループと合流。抜き取ったデータが入った端末を渡すも、求めていた情報ではないと雇い主に激昂される。両者が報酬の支払いに関して言い合うタイミングで現れたバトーは、ザイツェフ以外の3人に発砲。そして、ザイツェフに「もう一度俺に勝ったら見逃してやる」と提案し、2人はベアナックルで殴り合うことに。

ザイツェフは、昨日のようにタイミングを見計らってクロスカウンターを放つも、バトーに拳を掴まれてしまい、反対にパンチで倒される。「昨日は、わざと負けたのか?」と問うザイツェフに、「わざとかどうかもわからないほど錆びちまったのか」とバトー。ザイツェフは「あの時(パラリンピック決勝)も心に隙があったのは、俺の方だ」と項垂れる。

ザイツェフの逮捕を見届けたバトーは、帰り道で彼の妻と偶然会ってしまう。ザイツェフの妻からメドブーハを手渡されたバトーは、9課に帰還。同僚のトグサから声をかけられるも、ロッカーから天然オイルと、もらったばかりのメドブーハを取り出し、ゴミ箱に叩きつけた。

天然オイルは、バトーがよかれと思ってタチコマに与えたものだったが、機械である彼らにその後“自我を得る”という人間的な変化をもたらしてしまった。天然オイルが直接的な原因だったかは描かれていないとはいえ、その責任をバトーが感じるのは当然だった。

16話は、バトーが闇雲にサンドバッグを叩く姿で終了する。

このエピソードで最も注目されるべきは、ザイツェフが語っていた「義体の隙をつく」という表現だ。トップボクサーだった彼が身につけた技術には、確実に金メダル級の価値があった。しかし、それが慢心へつながり、犯罪行為に手を染めるきっかけにもなってしまった。

メダルの色が報奨金、大会後の待遇、引退後のキャリアに与える影響は国によって異なる。ザイツェフにとっては、金メダル獲得による人生設計が何よりのモチベーションだった。銀メダルに終わった後で周囲から手のひら返しをされた挙句、格闘教官に成り下がったと感じていたのだろう。

憤りが優秀なアスリートを変え、“心の隙”を作った。妻の気遣いも理解できなくなっていった。良かれと思っての行為が反対の結果を生む。潜入捜査中、ザイツェフとの距離を縮めていったバトーは、それを実感し、自分自身に投影していたのかもしれない。また、憧れていた存在が堕ちた姿を目の当たりにし、ショックを受けていたのかもしれない。

気持ちの整理がつかないバトーは、「クソ!」とサンドバッグを叩き続けるしかなかったのだ。

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